芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の小説。1927年(昭和2)3月『改造』に発表。スウィフト作『ガリバー旅行記』などの先例のある、社会風刺をもった寓意(ぐうい)小説をねらった作品である。ある精神病院の患者が話す、河童の国訪問の体験談の形をとっている。河童の国の「特別保護住民」となった主人公は、人間の社会とはまるで逆になっている河童の国で、胎児が自分で生まれるのを拒否したり、雌が雄を追いかけ回す河童の恋愛を見たり、珍しい体験をするが、結局は憂鬱(ゆううつ)になり人間の世界へ帰ってくる。しかし、人間の醜さにも耐えられず精神病院に入院している。社会批評や風刺よりも、作者自身が当面していた苦悩や問題がそのままの形で出ており、自殺を前にした作者の内面を理解するうえで貴重な作品である。