今ではもう十年あまり以前になるが、ある年の春私は実践倫理学の講義を依頼されて、その間かれこれ一週間ばかり、岐阜県下の大垣町へ滞在する事になった。元来地方有志なるものの難有迷惑な厚遇に辟易していた私は、私を請待してくれたある教育家の団体へ予め断りの手紙を出して、送迎とか宴会とかあるいはまた名所の案内とか、そのほかいろいろ講演に附随する一切の無用な暇つぶしを拒絶したい旨希望して置いた。すると幸私の変人だと云う風評は夙にこの地方にも伝えられていたものと見えて、やがて私が向うへ行くと、その団体の会長たる大垣町長の斡旋によって、万事がこの我儘な希望通り取計らわれたばかりでなく、宿も特に普通の旅館を避けて、町内の素封家N氏の別荘とかになっている閑静な住居を周旋された。
芥川竜之介の短編小説。大正8年(1919)、雑誌「新小説」に発表。ヨーロッパ中世の聖人伝「黄金伝説」に着想を得た作品とされる。キリスト教の聖人伝説集『レゲンダ・アウレア』(黄金伝説)に登場する聖人クリストフォロスの生涯を翻案した小説。キリシタン版の『天草本伊曾保物語』(1594年刊)で使用されている、戦国時代の京阪地方における話し言葉を引用した文体に特徴がある。芥川の小説におけるジャンル「切支丹物」の傑作とされる。
彼は若い愛蘭土人だった。彼の名前などは言わずとも好い。僕はただ彼の友だちだった。彼の妹さんは僕のことを未だに My brother's best friend と書いたりしている。僕は彼と初対面の時、何か前にも彼の顔を見たことのあるような心もちがした。いや、彼の顔ばかりではない。その部屋のカミンに燃えている火も、火かげの映った桃花心木の椅子も、カミンの上のプラトオン全集も確かに見たことのあるような気がした。この気もちはまた彼と話しているうちにだんだん強まって来るばかりだった。僕はいつかこう云う光景は五六年前の夢の中にも見たことがあったと思うようになった。
明代万历年间的书,作者把所见所闻的一些骗例,汇集起来,细细解说,意在教人防骗。本书所讲的故事按照骗子的行为方式,分成二十四个门类,形象、真实地反映了明朝中叶后光怪陆离、五花八门的骗人勾当。《杜骗新书》,又名《骗经》(全名“鼎刻江湖历览杜骗新书”)、《防骗经》,总四卷二十四类八十八则,是笔记小说,小型百科式骗子故事集,古代第一部以骗子、骗术为主题的著作。作者以剖析江湖骗术的原理、手法为入口,以杜绝欺诈现象为编撰目标,以时事为底本,以写实的手法,总汇五花八门的骗局、骗术,并在每则故事末附按语评论,具有史料价值,足以作为晚明社会之侧写;而作为一部兼具公案及世情特色的笔记小说,阅读的过程既让人警醒也饶有兴味。