七
河内山宗俊は、ほかの坊主共が先を争って、斉広の銀の煙管を貰いにゆくのを、傍痛く眺めていた。ことに、了哲が、八朔の登城の節か何かに、一本貰って、嬉しがっていた時なぞは、持前の癇高い声で、頭から「莫迦め」をあびせかけたほどである。彼は決して銀の煙管が欲しくない訳ではない。が、ほかの坊主共と一しょになって、同じ煙管の跡を、追いかけて歩くには、余りに、「金箔」がつきすぎている。その高慢と欲との鬩ぎあうのに苦しめられた彼は、今に見ろ、己が鼻を明かしてやるから――と云う気で、何気ない体を装いながら、油断なく、斉広の煙管へ眼をつけていた。
すると、ある日、彼は、斉広が、以前のような金無垢の煙管で悠々と煙草をくゆらしているのに、気がついた。が、坊主仲間では誰も貰いに行くものがないらしい。そこで彼は折から通りかかった了哲をよびとめて、そっと顋で斉広の方を教えながら囁いた。
河内山は懐から、黄いろく光る煙管を出したかと思うと、了哲の顔へ抛りつけて、足早に行ってしまった。
宗俊は肩をゆすった。四方を憚って笑い声を立てなかったのである。
宗俊は、口早にこう云って、独り、斉広の方へやって行った。あっけにとられた了哲を、例の西王母の金襖の前に残しながら。
了哲はそれを聞くと、呆れたような顔をして、宗俊を見た。
了哲は、下唇をつき出しながら、じろじろ宗俊の顔を見て、
それから、半時ばかり後である。了哲は、また畳廊下で、河内山に出っくわした。
「真鍮だろうさ。」
「手前たちの思惑は先様御承知でよ。真鍮と見せて、実は金無垢を持って来たんだ。第一、百万石の殿様が、真鍮の煙管を黙って持っている筈がねえ。」
「一件た何だ。」
「よし、真鍮なら、真鍮にして置け。己が拝領と出てやるから。」
「また金無垢になったじゃねえか。」
「どうして、また、金だと云うのだい。」了哲の自信は、怪しくなったらしい。
「どうしたい、宗俊、一件は。」
「とぼけなさんな。煙管の事さ。」
「じゃあれは何だ。」
「うん、煙管か。煙管なら、手前にくれてやらあ。」
「いい加減に欲ばるがいい。銀の煙管でさえ、あの通りねだられるのに、何で金無垢の煙管なんぞ持って来るものか。」
了哲は、ぶつけられた所をさすりながら、こぼしこぼし、下に落ちた煙管を手にとった。見ると剣梅鉢の紋ぢらしの数寄を凝らした、――真鍮の煙管である。彼は忌々しそうに、それを、また、畳の上へ抛り出すと、白足袋の足を上げて、この上を大仰に踏みつける真似をした。……