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煙管

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それから間もなくの事である。

斉広なりひろがいつものように、殿中でんちゅうの一間で煙草をくゆらせていると、西王母せいおうぼを描いた金襖きんぶすまが、静にいて、黒手くろで黄八丈きはちじょうに、黒の紋附もんつきの羽織を着た坊主が一人、うやうやしく、彼の前へ這って出た。顔を上げずにいるので、誰だかまだわからない。――斉広は、何か用が出来たのかと思ったので、煙管きせるをはたきながら、寛濶かんかつに声をかけた。

河内山は、小声でこう云って、煙管の雁首がんくびを、了哲の鼻の先へ、持って行った。

斉広は思わず手にしていた煙管を見た。その視線が、煙管へ落ちたのと、河内山が追いかけるように、語を次いだのとが、ほとんど同時である。

宗俊は、金無垢の煙管をうけとると、恭しく押頂おしいただいて、そこそこ、また西王母のふすまの向うへ、ひき下った。すると、ひき下る拍子に、うしろから袖を引いたものがある。ふりかえると、そこには、了哲りょうてつが、うすいものある顔をにやつかせながら、彼のてのひらの上にある金無垢の煙管をもの欲しそうに、指さしていた。

宗俊の語のうちにあるものは懇請の情ばかりではない、お坊主ぼうずと云う階級があらゆる大名に対して持っている、威嚇いかくの意もこもっている。煩雑な典故てんことうとんだ、殿中では、天下の侯伯も、お坊主の指導に従わなければならない。斉広には一方にそう云う弱みがあった。それからまた一方には体面上卑吝ひりんの名を取りたくないと云う心もちがある。しかも、彼にとって金無垢の煙管そのものは、決して得難い品ではない。――この二つの動機が一つになった時、彼の手はおのずから、その煙管を、河内山の前へさし出した。

「有難うございまする。」

「別儀でもございませんが、その御手許にございまする御煙管を、手前、拝領致しとうございまする。」

「何用じゃ。」

「今度は、わしも拝領と出かけよう。」

「へん、御勝手ごかってになせえましだ。」

「とうとう、せしめたな。」

「だから、云わねえ事じゃねえ。今になって、うらやましがったって、あとの祭だ。」

「こう、見や。」

「おお、とらす。持ってまいれ。」

「ええ、宗俊そうしゅん御願がございまする。」

如何いかがでございましょう。拝領仰せつけられましょうか。」

河内山こうちやまはこう云って、ちょいと言葉を切った。それから、次の語を云っている中に、だんだんかしらを上げて、しまいには、じっと斉広の顔を見つめ出した。こう云う種類の人間のみが持って居る、一種の愛嬌あいきょうをたたえながら、蛇が物を狙うような眼で見つめたのである。

河内山は、ちょいと煙管の目方をひいて見て、それから、襖ごしに斉広の方を一瞥いちべつしながら、また、肩をゆすってせせら笑った。

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