二
斉広の持っている、金無垢の煙管に、眼を駭かした連中の中で、最もそれを話題にする事を好んだのは所謂、お坊主の階級である。彼等はよるとさわると、鼻をつき合せて、この「加賀の煙管」を材料に得意の饒舌を闘わせた。
「さすがは、大名道具だて。」
調子にのって弁じていた了哲と云う坊主が、ふと気がついて見ると、宗俊は、いつの間にか彼の煙管入れをひきよせて、その中から煙草をつめては、悠然と煙を輪にふいている。
河内山は、一座の坊主を、尻眼にかけて、空嘯いた。
宗俊は、了哲の方を見むきもせずに、また煙草をつめた。そうして、それを吸ってしまうと、生あくびを一つしながら、煙草入れをそこへ抛り出して、
了哲は慌てて、煙草入れをしまった。
了哲はきれいに剃った頭を一つたたいて恐縮したような身ぶりをした。
するとある日、彼等の五六人が、円い頭をならべて、一服やりながら、例の如く煙管の噂をしていると、そこへ、偶然、御数寄屋坊主の河内山宗俊が、やって来た。――後年「天保六歌仙」の中の、主な rolê をつとめる事になった男である。
ざっと、こんな調子である。
さすがに、了哲も相手の傍若無人なのにあきれたらしい。
「貴公じゃあるまいし、誰が質になんぞ、置くものか。」
「知れた事よ。金無垢ならばこそ、貰うんだ。真鍮の駄六を拝領に出る奴がどこにある。」
「手前が貰わざ、己が貰う。いいか、あとで羨しがるなよ。」
「同じ道具でも、ああ云う物は、つぶしが利きやす。」
「ふんまた煙管か。」と繰返して、「そんなに金無垢が有難けりゃ何故お煙管拝領と出かけねえんだ。」
「ふんまた煙管か。」
「なに、金無垢の煙管なら、それでも、ちょいとのめようと云うものさ。」
「だが、そいつは少し恐れだて。」
「そうよ。」
「お煙管拝領?」
「おい、おい、それは貴公の煙草入れじゃないぜ。」
「ええ、悪い煙草だ。煙管ごのみが、聞いてあきれるぜ。」
「いくらお前、わしが欲ばりでも、……せめて、銀ででもあれば、格別さ。……とにかく、金無垢だぜ。あの煙管は。」
「いいって事よ。」
「質に置いたら、何両貸す事かの。」
「彫と云い、地金と云い、見事な物さ。銀の煙管さえ持たぬこちとらには見るも眼の毒……」
河内山はこう云って、煙管をはたきながら肩をゆすって、せせら笑った。