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煙管

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加州かしゅう石川ごおり金沢城の城主、前田斉広なりひろは、参覲中さんきんちゅう、江戸城の本丸ほんまる登城とじょうする毎に、必ず愛用の煙管きせるを持って行った。当時有名な煙管商、住吉屋七兵衛すみよしやしちべえの手に成った、金無垢地きんむくじに、剣梅鉢けんうめばちもんぢらしと云う、数寄すきらした煙管きせるである。

前田家は、幕府の制度によると、五世ごせ加賀守綱紀かがのかみつなのり以来、大廊下詰おおろうかづめで、席次は、世々尾紀水三家びきすいさんけの次を占めている。勿論、裕福な事も、当時の大小名の中で、肩を比べる者は、ほとんど、一人もない。だから、その当主たる斉広が、金無垢きんむくの煙管を持つと云う事は、むしろ身分相当の装飾品を持つのに過ぎないのである。

そう云う次第だから、斉広は、登城している間中、殆どその煙管を離した事がない。人と話しをしている時は勿論、独りでいる時でも、彼はそれを懐中から出して、鷹揚おうように口にくわえながら、長崎煙草ながさきたばこか何かの匂いの高い煙りを、必ず悠々とくゆらせている。

しかし斉広は、その煙管を持っている事をはなはだ、得意に感じていた。もっとも断って置くが、彼の得意は決して、煙管そのものを、どんな意味ででも、愛翫あいがんしたからではない。彼はそう云う煙管を日常口にし得る彼自身の勢力が、他の諸侯に比して、優越な所以ゆえんを悦んだのである。つまり、彼は、加州百万石が金無垢の煙管になって、どこへでも、持って行けるのが、得意だった――と云っても差支さしつかえない。

勿論この得意な心もちは、煙管なり、それによって代表される百万石なりを、人に見せびらかすほど、増長慢ぞうちょうまんな性質のものではなかったかも知れない。が、彼自身が見せびらかさないまでも、殿中でんちゅうの注意は、明かに、その煙管に集注されている観があった。そうして、その集注されていると云う事を意識するのが斉広にとっては、かなり愉快な感じを与えた。――現に彼には、同席の大名に、あまりお煙管が見事だからちょいと拝見させて頂きたいと、云われたあとでは、のみなれた煙草の煙までがいつもより、一層快く、舌を刺戟しげきするような気さえ、したのである。

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