奇怪な再会在线阅读

奇怪な再会

Txt下载

移动设备扫码阅读

それから二三日経ったある夜、おれんは本宅を抜けて来た牧野まきのと、近所の寄席よせへ出かけて行った。

手品てじな剣舞けんぶ幻燈げんとう大神楽だいかぐら――そう云う物ばかりかかっていた寄席は、身動きも出来ないほど大入おおいりだった。二人はしばらく待たされたのち、やっと高座こうざには遠い所へ、窮屈きゅうくつな腰をおろす事が出来た。彼等がそこへ坐った時、あたりの客は云い合わせたように、丸髷まるまげったお蓮の姿へ、物珍しそうな視線を送った。彼女にはそれが晴がましくもあれば、同時にまた何故なぜか寂しくもあった。

高座には明るいつりランプの下に、白い鉢巻をした男が、長い抜き身を振りまわしていた。そうして楽屋がくやからは朗々と、「踏み破る千山万岳の煙」とか云う、詩をうたう声が起っていた。お蓮にはその剣舞は勿論、詩吟も退屈なばかりだった。が、牧野は巻煙草へ火をつけながら、面白そうにそれを眺めていた。

牧野は思わず足を止めると、ちょいと耳を澄ませて見た。が、寂しい往来には、犬の吠える声さえ聞えなかった。

所が横町よこちょうを一つ曲ると、突然お蓮はおびえたように、牧野の外套がいとうの袖を引いた。

彼はまだ足を止めずに、お蓮の方を振り返った。

彼は牛荘ニューチャンの激戦の画を見ながら、半ば近所へも聞かせるように、こうお蓮へ話しかけた。が、彼女は不相変あいかわらず、熱心に幕へ眼をやったまま、かすかにうなずいたばかりだった。それは勿論どんな画でも、幻燈が珍しい彼女にとっては、興味があったのに違いなかった。しかしそのほかにも画面の景色は、――雪の積った城楼じょうろうの屋根だの、枯柳かれやなぎつないだ兎馬うさぎうまだの、辮髪べんぱつを垂れた支那兵だのは、特に彼女を動かすべき理由も持っていたのだった。

寄席がはねたのは十時だった。二人は肩を並べながら、しもうたばかり続いている、人気ひとけのない町を歩いて来た。町の上には半輪の月が、霜の下りた家々の屋根へ、寒い光を流していた。牧野はその光の中へ、時々巻煙草まきたばこの煙を吹いては、さっきの剣舞でも頭にあるのか、

剣舞の次は幻燈げんとうだった。高座こうざおろした幕の上には、日清戦争にっしんせんそうの光景が、いろいろ映ったり消えたりした。大きな水柱みずばしらを揚げながら、「定遠ていえん」の沈没する所もあった。敵の赤児をいた樋口大尉ひぐちたいいが、突撃を指揮する所もあった。大勢の客はそのの中に、たまたま日章旗が現れなぞすると、必ず盛な喝采かっさいを送った。中には「帝国万歳」と、頓狂な声を出すものもあった。しかし実戦に臨んで来た牧野は、そう云う連中とは没交渉に、ただにやにやと笑っていた。

お蓮は彼に寄り添いながら、気味の悪そうな眼つきをしていた。

「誰か呼んでいるようですもの。」

「気のせいですかしら。」

「戦争もあの通りだと、らくなもんだが、――」

「呼んでいる?」

「びっくりさせるぜ。何だ?」

鞭声べんせい粛々しゅくしゅくよるかわを渡る」なぞと、古臭い詩の句を微吟びぎんしたりした。

空耳そらみみだよ。何が呼んでなんぞいるものか。」

「あんな幻燈を見たからじゃないか?」

6.02%