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奇怪な再会

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きん、金、金、」

そうおれんが書き続けていると、台所にいた雇婆やといばあさんが、突然かすかな叫び声を洩らした。このうちでは台所と云っても、障子一重ひとえ開けさえすれば、すぐにそこが板のだった。

婆さんは妙なまたたきをした。

婆さんは水口みずぐちの腰障子を開けると、暗い外へ小犬を捨てようとした。

両袖を胸に合せたお蓮は、じっとその犬を覗きこんだ。犬は婆さんに抱かれたまま、水々みずみずしい眼を動かしては、しきりに鼻を鳴らしている。

その翌日から妾宅には、赤い頸環くびわに飾られた犬が、畳の上にいるようになった。

お蓮は犬を板のおろすと、無邪気な笑顔を見せながら、もうさかなでも探してやる気か、台所の戸棚とだなに手をかけていた。

お蓮は婆さんの止めるのも聞かず、両手にその犬をきとった。犬は彼女の手の内に、ぶるぶる体をふるわせていた。それが一瞬間過去の世界へ、彼女の心をつれて行った。お蓮はあの賑かなうちにいた時、客の来ない夜は一しょに寝る、白い小犬を飼っていたのだった。

お蓮は台所へ出て行って見た。

「猫かい?」

「何? 婆や。」

「まあ御待ち、ちょいと私も抱いて見たいから、――」

「まあ御新ごしんさん。いらしって御覧なさい。ほんとうに何だと思ったら、――」

「はい、その癖ここにさっきから、御茶碗を洗って居りましたんですが――やっぱり人間眼の悪いと申す事は、仕方のないもんでございますね。」

「ねえ、婆や。飼ってやろうよ。お前に面倒はかけないから、――」

「その時分から私は、嫌だ嫌だと思っていましたよ。何しろ薄暗いランプの光に、あの白犬が御新造ごしんぞの寝顔をしげしげ見ていた事もあったんですから、――」

「これは今朝けさほど五味溜ごみための所に、いていた犬でございますよ。――どうしてはいって参りましたかしら。」

「お前はちっとも知らなかったの?」

「いえ、犬でございますよ。」

御止およしなさいましよ。御召しでもよごれるといけません。」

可哀かわいそうに、――飼ってやろうかしら。」

綺麗きれい好きな婆さんは、勿論もちろんこの変化を悦ばなかった。殊に庭へ下りた犬が、泥足のままあがって来なぞすると、一日腹を立てている事もあった。が、ほかに仕事のないお蓮は、子供のように犬を可愛がった。食事の時にもぜんの側には、必ず犬が控えていた。夜はまた彼女の夜着の裾に、まろまろ寝ている犬を見るのが、文字通り毎夜の事だった。

かまどが幅をとった板の間には、障子しょうじに映るランプの光が、物静かな薄暗をつくっていた。婆さんはその薄暗の中に、半天はんてんの腰をかがめながら、ちょうど今何か白いけものき上げている所だった。

婆さんがかれこれ一年ののち、私の友人のKと云う医者に、こんな事も話して聞かせたそうである。

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