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奇怪な再会

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道人どうじんは薄赤い絹を解いて、香炉こうろの煙に一枚ずつ、中の穴銭あなせんくんじたのち、今度はとこに懸けたじくの前へ、丁寧に円い頭を下げた。軸は狩野派かのうはいたらしい、伏羲文王周公孔子ふくぎぶんおうしゅうこうこうしの四大聖人の画像だった。

惟皇これこうたる上帝じょうてい、宇宙の神聖、この宝香ほうこうを聞いて、ねがわくは降臨を賜え。――猶予ゆうよ未だ決せず、疑う所は神霊にただす。請う、皇愍こうびんを垂れて、すみやかに吉凶を示し給え。」

そんな祭文さいもんが終ってから、道人は紫檀したんの小机の上へ、ぱらりと三枚の穴銭をいた。穴銭は一枚は文字が出たが、跡の二枚は波の方だった。道人はすぐに筆を執って、巻紙にその順序を写した。

その晩彼女は長火鉢の前に、ぼんやり頬杖ほおづえをついたなり、鉄瓶てつびんの鳴る音に聞き入っていた。玄象道人の占いは、結局何の解釈をも与えてくれないのと同様だった。いや、むしろ積極的に、彼女がひそかにいだいていた希望、――たといいかにはかなくとも、やはり希望には違いない、万一を期する心もちを打ち砕いたのも同様だった。男は道人がほのめかせたように、実際生きていないのであろうか? そう云えば彼女が住んでいた町も、当時は物騒な最中だった。男はお蓮のいるうちへ、不相変あいかわらず通って来る途中、何か間違いに遇ったのかも知れない。さもなければ忘れたように、ふっつり来なくなってしまったのは、――お蓮は白粉おしろいいた片頬かたほおに、炭火すみび火照ほてりを感じながら、いつか火箸をもてあそんでいる彼女自身を見出みいだした。

お蓮は声が震えるのを感じた。「やはりそうか」と云う気もちが、「そんな筈はない」と云う気もちと一しょに、思わず声へ出たのだった。

お蓮はここへ来た時よりも、一層心細い気になりながら、高い見料けんりょうを払ったのち匇々そうそううちへ帰って来た。

お蓮はず三枚の銭から、老人の顔へ視線を移した。

お蓮に駄目だめを押された道人は、金襴きんらんの袋の口をしめると、あぶらぎった頬のあたりに、ちらりと皮肉らしい表情が浮んだ。

「生きていられるか、死んでいられるかそれはちと判じにくいが、――とにかく御遇いにはなれぬものと御思いなさい。」

「まずその御親戚とかの若いかたにも、二度と御遇おあいにはなれそうもないな。」

「どうしても遇えないでございましょうか?」

「では生きては居りませんのでしょうか?」

「さて――と。」

「これは雷水解らいすいかいと云うでな、諸事思うようにはならぬとあります。――」

きん、金、金、――」

滄桑そうそうへんと云う事もある。この東京が森や林にでもなったら、御遇いになれぬ事もありますまい。――とまず、にはな、卦にはちゃんと出ています。」

ぜにげては陰陽いんようさだめる、――それがちょうど六度続いた。おれんはその穴銭の順序へ、心配そうな眼をそそいでいた。

玄象道人げんしょうどうじんはこう云いながら、また穴銭を一枚ずつ、薄赤い絹に包み始めた。

擲銭てきせんが終った時、老人は巻紙まきがみを眺めたまま、しばらくはただ考えていた。

灰の上にはそう云う字が、何度も書かれたり消されたりした。

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