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奇怪な再会

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れんに男のあった事は、牧野まきのも気がついてはいたらしかった。が、彼はそう云う事には、頓着とんちゃくする気色けしきも見せなかった。また実際男の方でも、牧野が彼女にのぼせ出すと同時に、ぱったり遠のいてしまったから、彼が嫉妬しっとを感じなかったのも、自然と云えば自然だった。

しかしお蓮の頭の中には、始終男の事があった。それは恋しいと云うよりも、もっと残酷ざんこくな感情だった。何故なぜ男が彼女の所へ、突然足踏みもしなくなったか、――その訳が彼女には呑みこめなかった。勿論お蓮は何度となく、変り易い世間の男心に、一切の原因を見出そうとした。が、男の来なくなった前後の事情を考えると、あながちそうばかりも、思われなかった。と云って何か男のほうに、やむを得ない事情が起ったとしても、それも知らさずに別れるには、彼等二人の間柄は、余りに深い馴染なじみだった。では男の身の上に、不慮の大変でもおそって来たのか、――お蓮はこう想像するのが、恐しくもあれば望ましくもあった。………

老人は金襴の袋から、穴銭あなせんを三枚取り出した。穴銭は皆一枚ずつ、薄赤い絹に包んであった。

男の夢を見た二三日のち、お蓮は銭湯せんとうに行った帰りに、ふと「身上判断みのうえはんだん玄象道人げんしょうどうじん」と云う旗が、ある格子戸造こうしどづくりの家に出してあるのが眼に止まった。その旗は算木さんぎを染め出す代りに、赤い穴銭あなせんの形をいた、余り見慣れない代物しろものだった。が、お蓮はそこを通りかかると、急にこの玄象道人に、男が昨今どうしているか、うらなって貰おうと云う気になった。

玄象道人は頭をった、恰幅かっぷくい老人だった。が、金歯きんばめていたり、巻煙草をすぱすぱやる所は、一向道人らしくもない、下品な風采ふうさいを具えていた。お蓮はこの老人の前に、彼女には去年行方ゆくえ知れずになった親戚のものが一人ある、その行方を占って頂きたいと云った。

玄象道人はじろりとお蓮を見ると、二三度びた笑い声を出した。

案内に応じて通されたのは、日当りのい座敷だった。その上主人が風流なのか、支那シナの書棚だのらんの鉢だの、煎茶家せんちゃかめいた装飾があるのも、居心いごころい空気をつくっていた。

すると老人は座敷の隅から、早速二人のまん中へ、紫檀したんの小机を持ち出した。そうしてその机の上へ、うやうやしそうに青磁せいじ香炉こうろ金襴きんらんの袋を並べ立てた。

お蓮は男の年を答えた。

「私の占いは擲銭卜てきせんぼくと云います。擲銭卜は昔かん京房けいぼうが、始めてぜいに代えて行ったとある。御承知でもあろうが、筮と云う物は、一爻いっこうに三変の次第があり、一卦いっけに十八変の法があるから、容易に吉凶を判じ難い。そこはこの擲銭卜の長所でな、……」

「御生れ年も御存知かな? いや、よろしい、一白いっぱくになります。」

「ははあ、まだ御若いな、御若い内はとかく間違いが起りたがる。手前てまえのような老爺おやじになっては、――」

「その御親戚は御幾おいくつですな?」

そう云う内に香炉からは、道人のべたこうの煙が、あかるい座敷の中にのぼり始めた。

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