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奇怪な再会

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「どうしたんですよ? その傷は。」

ある静かな雨降りの、おれん牧野まきのしゃくをしながら、彼の右の頬へ眼をやった。そこには青い剃痕そりあとの中に、大きな蚯蚓脹みみずばれが出来ていた。

雨は彼等がとこへはいってから、みぞれの音に変り出した。お蓮は牧野が寝入ったのち何故なぜかいつまでも眠られなかった。彼女のえた眼の底には、見た事のない牧野の妻が、いろいろな姿を浮べたりした。が、彼女は同情は勿論、憎悪ぞうお嫉妬しっとも感じなかった。ただその想像に伴うのは、多少の好奇心ばかりだった。どう云う夫婦喧嘩をするのかしら。――お蓮は戸の外の藪や林が、霙にざわめくのを気にしながら、真面目にそんな事も考えて見た。

牧野は冗談かと思うほど、顔色かおいろも声もけろりとしていた。

牧野の言葉には思いのほか、真面目まじめそうな調子もまじっていた。

牧野の眼にはちょいとのあいだ狡猾こうかつそうな表情が浮んだ。

それでも二時を聞いてしまうと、ようやく眠気ねむけがきざして来た。――お蓮はいつか大勢おおぜいの旅客と、薄暗い船室に乗り合っている。円い窓から外を見ると、黒い波のかさなった向うに、月だか太陽だか判然しない、妙に赤光あかびかりのするたまがあった。乗合いの連中はどうした訳か、皆影の中に坐ったまま、一人も口を開くものがない。お蓮はだんだんこの沈黙が、恐しいような気がし出した。その内に誰かが彼女のうしろへ、歩み寄ったらしいけはいがする。彼女は思わず振り向いた。すると後には別れた男が、悲しそうな微笑を浮べながら、じっと彼女を見下している。………

その晩牧野は久しぶりに、妾宅へ泊って行く事になった。

そこへ婆さんが勝手から、あつらえ物の蒲焼かばやきを運んで来た。

お蓮は考え深そうに、長火鉢の炭火すみびへ眼を落した。

お蓮はくすくす笑い出した。

「笑い事じゃないぜ。ここにいる事が知れた日にゃ、明日あしたにも押しかけて来ないものじゃない。」

「私の国の人間は、みんなあきらめが好いんです。」

「度胸が好い訳じゃないんです。わたしの国の人間は、――」

「まあ、嫌な御新造ごしんぞだ。どうしてまたそんな事をしたんです?」

「へええ、ひどくまた度胸どきょういな。」

「どうしてもこうしてもあるものか。御定おさだまりのつのをはやしたのさ。おれでさえこのくらいだから、お前なぞがって見ろ。たちまち喉笛のどぶえへ噛みつかれるぜ。まず早い話が満洲犬まんしゅうけんさ。」

「そうしたら、その時の事ですわ。」

「じゃお前は焼かないと云う訳か?」

「これか? これはかかあに引っかれたのさ。」

「おれの国の人間は、みんな焼くよ。就中なかんずくおれなんぞは、――」

きんさん。」

お蓮は彼女自身の声に、け方の眠から覚まされた。牧野はやはり彼女の隣に、静かな呼吸を続けていたが、こちらへ背中を向けた彼が、実際寝入っていたのかどうか、それはお蓮にはわからなかった。

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