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疑惑

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中村玄道なかむらげんどうはしばらく言葉を切って、臆病おくびょうらしい眼をたたみへ落した。突然こんな話を聞かされた私も、いよいよ広い座敷の春寒はるさむが襟元まで押寄せたような心もちがして、「成程なるほど」と云う元気さえ起らなかった。

部屋の中には、ただ、ランプの油を吸い上げる音がした。それから机の上に載せた私の懐中時計が、細かく時を刻む音がした。と思うとまたその中で、床の間の楊柳観音ようりゅうかんのんが身動きをしたかと思うほど、かすかな吐息といきをつく音がした。

私はおびえた眼を挙げて、悄然と坐っている相手の姿を見守った。吐息をしたのは彼だろうか。それとも私自身だろうか。――が、その疑問が解けない内に、中村玄道はやはり低い声で、おもむろに話を続け出した。

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