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杜子春

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「お前は何を考えているのだ」

片目すがめの老人は、三杜子春とししゅんの前へ来て、同じことを問いかけました。勿論もちろん彼はその時も、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞を破っている三日月の光を眺めながら、ぼんやりたたずんでいたのです。

鉄冠子はそこにあった青竹を一本拾い上げると、口のうち咒文じゅもんを唱えながら、杜子春と一しょにその竹へ、馬にでも乗るようにまたがりました。すると不思議ではありませんか。竹杖は忽ち竜のように、いきおいよく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角へ飛んで行きました。

老人は杜子春の言葉を聞くと、急ににやにや笑い出しました。

老人はまゆをひそめたまま、暫くは黙って、何事か考えているようでしたが、やがて又にっこり笑いながら、

老人はいぶかしそうな眼つきをしながら、じっと杜子春の顔を見つめました。

老人がここまで言いかけると、杜子春は急に手を挙げて、その言葉をさえぎりました。

杜子春は喜んだの、喜ばないのではありません。老人の言葉がまだ終らない内に、彼は大地に額をつけて、何度も鉄冠子に御時宜おじぎをしました。

杜子春は不平そうな顔をしながら、突慳貪つっけんどんにこう言いました。

杜子春はちょいとためらいました。が、すぐに思い切った眼を挙げると、訴えるように老人の顔を見ながら、

杜子春はきもをつぶしながら、恐る恐る下を見下しました。が、下には唯青い山々が夕明ゆうあかりの底に見えるばかりで、あの洛陽の都の西の門は、(とうに霞に紛れたのでしょう)どこを探しても見当りません。その内に鉄冠子は、白いびんの毛を風に吹かせて、高らかに歌をうたい出しました。

三たび岳陽に入れども、人らず。

「金はもういらない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまったと見えるな」

「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしようかと思っているのです」

「何、贅沢に飽きたのじゃありません。人間というものに愛想あいそがつきたのです」

「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従ついしょうもしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。やさしい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです」

「それも今の私には出来ません。ですから私はあなたの弟子でしになって、仙術せんじゅつの修業をしたいと思うのです。いいえ、隠してはいけません。あなたは道徳の高い仙人でしょう。仙人でなければ、一夜ひとよの内に私を天下第一の大金持にすることは出来ない筈です。どうか私の先生になって、不思議な仙術を教えて下さい」

「それは面白いな。どうして又人間に愛想が尽きたのだ?」

「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その腹に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの――」

「そうか。いや、お前は若い者に似合わず、感心に物のわかる男だ。ではこれからは貧乏をしても、安らかに暮して行くつもりか」

「いや、そう御礼などは言って貰うまい。いくらおれの弟子にしたところが、立派な仙人になれるかなれないかは、お前次第で決まることだからな。――が、ともかくもまずおれと一しょに、峨眉山の奥へ来て見るがい。おお、さいわい、ここに竹杖たけづえが一本落ちている。では早速これへ乗って、一飛びに空を渡るとしよう」

「いや、お金はもういらないのです」

「いかにもおれは峨眉山がびさんんでいる、鉄冠子てっかんしという仙人だ。始めお前の顔を見た時、どこか物わかりが好さそうだったから、二度まで大金持にしてやったのだが、それ程仙人になりたければ、おれの弟子にとり立ててやろう」と、快くねがいれてくれました。

袖裏しゅうり青蛇せいだ胆気粗たんきそなり。

あしたに北海に遊び、くれには蒼梧そうご

朗吟して、飛過ひか洞庭湖どうていこ

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