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杜子春

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杜子春は一日の内に、洛陽の都でもただ一人という大金持になりました。あの老人の言葉通り、夕日に影を映して見て、その頭に当る所を、夜中にそっと掘って見たら、大きな車にも余る位、黄金が一山出て来たのです。

大金持になった杜子春は、すぐに立派なうちを買って、玄宗げんそう皇帝にも負けない位、贅沢ぜいたくな暮しをし始めました。蘭陵らんりょうの酒を買わせるやら、桂州けいしゅう竜眼肉りゅうがんにくをとりよせるやら、日に四度よたび色の変る牡丹ぼたんを庭に植えさせるやら、白孔雀しろくじゃくを何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、にしきを縫わせるやら、香木こうぼくの車を造らせるやら、象牙ぞうげの椅子をあつらえるやら、その贅沢を一々書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならない位です。

老人はこう言ったと思うと、今度もまた人ごみの中へ、き消すように隠れてしまいました。

杜子春は老人の顔を見ると、恥しそうに下を向いたまま、暫くは返事もしませんでした。が、老人はその日も親切そうに、同じ言葉を繰返しますから、こちらも前と同じように、

杜子春はその翌日から、たちまち天下第一の大金持に返りました。と同時に相変らず、仕放題な贅沢をし始めました。庭に咲いている牡丹の花、その中に眠っている白孔雀、それから刀を呑んで見せる、天竺から来た魔法使――すべてが昔の通りなのです。

そこで彼は或日の夕方、もう一度あの洛陽の西の門の下へ行って、ぼんやり空を眺めながら、途方に暮れて立っていました。するとやはり昔のように、片目すがめの老人が、どこからか姿を現して、

するとこういううわさを聞いて、今まではみちで行き合っても、挨拶あいさつさえしなかった友だちなどが、朝夕遊びにやって来ました。それも一日ごとに数が増して、半年ばかりつ内には、洛陽の都に名を知られた才子や美人が多い中で、杜子春の家へ来ないものは、一人もない位になってしまったのです。杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又さかんなことは、中々なかなか口には尽されません。ごくかいつまんだだけをお話しても、杜子春が金のさかずきに西洋から来た葡萄酒ぶどうしゅんで、天竺てんじく生れの魔法使が刀をんで見せる芸に見とれていると、そのまわりには二十人の女たちが、十人は翡翠ひすいはすの花を、十人は瑪瑙めのうの牡丹の花を、いずれも髪に飾りながら、笛や琴をふし面白く奏しているという景色なのです。

しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家の杜子春も、一年二年と経つ内には、だんだん貧乏になり出しました。そうすると人間は薄情なもので、昨日きのうまでは毎日来た友だちも、今日は門の前を通ってさえ、挨拶一つして行きません。ましてとうとう三年目の春、又杜子春が以前の通り、一文無しになって見ると、広い洛陽の都の中にも、彼に宿を貸そうという家は、一軒もなくなってしまいました。いや、宿を貸すどころか、今ではわんに一杯の水も、恵んでくれるものはないのです。

「私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」と、恐る恐る返事をしました。

「そうか。それは可哀そうだな。ではおれがいことを一つ教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その胸に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから」

「お前は何を考えているのだ」と、声をかけるではありませんか。

ですから車に一ぱいにあった、あのおびただしい黄金も、又三年ばかり経つ内には、すっかりなくなってしまいました。

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