彼 第二在线阅读

彼 第二

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ニイスにいる彼の妹さんから久しぶりに手紙の来たためであろう。僕はつい二三日まえよる、夢の中に彼と話していた。それはどう考えても、初対面の時に違いなかった。カミンも赤あかと火を動かしていれば、そのまたかげも桃花心木マホガニイのテエブルや椅子いすうつっていた。僕は妙に疲労しながら、当然僕等のあいだに起る愛蘭土アイルランドの作家たちの話をしていた。しかし僕にのしかかって来る眠気ねむけと闘うのは容易ではなかった。僕は覚束おぼつかない意識のうちにこう云う彼の言葉を聞いたりした。

「I detest Bernard Shaw.」

しかし僕は腰かけたまま、いつかうとうと眠ってしまった。すると、――おのずから目をました。はまだ明け切らずにいるのであろう。風呂敷ふろしきに包んだ電燈は薄暗い光を落している。僕はとこの上に腹這はらばいになり、妙な興奮をしずめるために「敷島しきしま」に一本火をつけて見た。が、夢の中に眠った僕が現在に目をましているのはどうも無気味ぶきみでならなかった。

(大正十五年十一月二十九日)

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