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犬と笛

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やがて髪長彦かみながひこ生駒山いこまやまへ来て見ますと、成程山の中程に大きな洞穴ほらあなが一つあって、その中に金のくしをさした、綺麗きれい御姫様おひめさまが一人、しくしく泣いていらっしゃいました。

「御姫様、御姫様、わたくしが御迎えにまいりましたから、もう御心配には及びません。さあ、早く、御父様おとうさまの所へ御帰りになる御仕度をなすって下さいまし。」

髪長彦はにっこりほほ笑んで、

髪長彦はこれを聞くと、また白犬の頭をでながら、

ところが不思議な事には、それと同時に、雲でうずまっている谷底から、一陣の風がまき起りますと、その風の中に何かいて、

そこで髪長彦は、前のように二匹の犬を小脇こわきにかかえて御姫様と一しょに黒犬の背中へ跨りながら、

すると斑犬はすぐきばをむき出して、かみなりのようにうなりながら、まっしぐらに洞穴の中へとびこみましたが、たちまちの中にまた血だらけな食蜃人の首をくわえたまま、尾をふって外へ出て来ました。

しかし御姫様は、命拾いをなすった嬉しさに、この声も聞えないような御容子ごようすでしたが、やがて髪長彦の方を向いて、心配そうに仰有おっしゃいますには、

しかし御姫様は、まだ御眼に涙をためながら、洞穴の奥の方をそっと指さして御見せになって、

こう髪長彦が云いますと、三匹の犬も御姫様の裾や袖をくわえながら、

「髪長彦さん。難有ありがとう。この御恩は忘れません。私は食蜃人にいじめられていた、生駒山の駒姫こまひめです。」と、やさしい声で云いました。

「高の知れた食蜃人なぞを、何でこのわたくしこわがりましょう。その証拠には、今ここで、わけなく私が退治して御覧に入れます。」と云いながら、斑犬ぶちいぬの背中を一つたたいて、

「噛め。噛め。この洞穴の奥にいる食蜃人を一噛みに噛み殺せ。」と、勇ましい声で云いつけました。

「嗅げ。嗅げ。御姫様の御行方を嗅ぎ出せ。」と云いました。と、すぐに白犬は、

「わん、わん、御妹おいもとご様の御姫様は笠置山かさぎやま洞穴ほらあなんでいる土蜘蛛つちぐもとりこになっています。」と、主人の顔を見上げながら、鼻をびくつかせて答えました。この土蜘蛛と云うのは、昔神武天皇じんむてんのう様が御征伐になった事のある、一寸法師いっすんぼうしの悪者なのです。

「それでもあすこには、わたしをさらって来た食蜃人が、さっきから御酒に酔って寝ています。あれが目をさましたら、すぐに追いかけて来るでしょう。そうすると、あなたも私も、命をとられてしまうのにちがいありません。」と仰有おっしゃいました。

「さあ早く、御仕度をなすって下さいまし。わん、わん、わん、」と吠えました。

わたくしはあなたのおかげで命拾いをしましたが、妹は今時分どこでどんな目にって居りましょう。」

「飛べ。飛べ。笠置山の洞穴に住んでいる土蜘蛛の所へ飛んで行け。」と云いますと、黒犬はたちまち空へ飛び上って、これも青雲のたなびく中に聳えている笠置山へ矢よりも早く駈け始めました。

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