二
それから四五日たったある日のことです。髪長彦は三匹の犬をつれて、葛城山の麓にある、路が三叉になった往来へ、笛を吹きながら来かかりますと、右と左と両方の路から、弓矢に身をかためた、二人の年若な侍が、逞しい馬に跨って、しずしずこっちへやって来ました。
髪長彦はそれを見ると、吹いていた笛を腰へさして、叮嚀におじぎをしながら、
髪長彦は好い事を聞いたと思いましたから、早速白犬の頭を撫でて、
そこで木樵はすぐ白犬と斑犬とを、両方の側にかかえたまま、黒犬の背中に跨って、大きな声でこう云いつけました。
すると白犬は、折から吹いて来た風に向って、しきりに鼻をひこつかせていましたが、たちまち身ぶるいを一つするが早いか、
すると二人の侍が、交る交る答えますには、
こう云って二人の侍は、女のような木樵と三匹の犬とをさも莫迦にしたように見下しながら、途を急いで行ってしまいました。
「飛べ。飛べ。生駒山の洞穴に住んでいる食蜃人の所へ飛んで行け。」
「大臣様は大そうな御心配で、誰でも御姫様を探し出して来たものには、厚い御褒美を下さると云う仰せだから、それで我々二人も、御行方を尋ねて歩いているのだ。」
「今度飛鳥の大臣様の御姫様が御二方、どうやら鬼神のたぐいにでもさらわれたと見えて、一晩の中に御行方が知れなくなった。」
「わん、わん、御姉様の御姫様は、生駒山の洞穴に住んでいる食蜃人の虜になっています。」と答えました。食蜃人と云うのは、昔八岐の大蛇を飼っていた、途方もない悪者なのです。
「もし、もし、殿様、あなた方は一体、どちらへいらっしゃるのでございます。」と尋ねました。
「嗅げ。嗅げ。御姫様たちの御行方を嗅ぎ出せ。」と云いました。
その言が終らない中です。恐しいつむじ風が、髪長彦の足の下から吹き起ったと思いますと、まるで一ひらの木の葉のように、見る見る黒犬は空へ舞い上って、青雲の向うにかくれている、遠い生駒山の峰の方へ、真一文字に飛び始めました。