色のない焔は
「今度こそあの男を片づけたぞ。」
須世理姫は眼を伏せてゐたが、思ひの外はつきりと、父親の言葉を
須世理姫は彼の去つた後も、暫くは、暗く
素戔嗚は高い岩の上に、ぢつと
素戔嗚は色を変へて、須世理姫を
素戔嗚はその姿を見ると、急に彼女の悲しさを踏みにじりたいやうな気がし出した。
素戔嗚はかう心の
火は
彼は須世理姫に背を向けて、荒々しく門の内へはひつて行つた。さうして宮の
彼はこんな事を考へながら、青い匂のする菅畳の上に、幾度となく寝返りを打つた。眠はそれでも彼の上へ、容易に下らうとはしなかつた。
その日の薄暮、勝ち誇つた彼は腕を組んで、宮の門に佇みながら、まだ煙の迷つてゐる荒野の空を眺めてゐた。すると其処へ須世理姫が、
その夜素戔嗚は何時までも、眠に就く事が出来なかつた。それは葦原醜男を殺した事が、何となく彼の心の底へ毒をさしたやうな気がするからであつた。
「悲しければ、勝手に泣くが好い。」
「悲しうございます。よしんば御父様が
「存じて居ります。」
「何時ものおれなら口も利かずに、打ちのめしてやる所なのだが……」
「今度こそあの男を片づけたぞ。」
「さうか? ではさぞかし悲しからうな?」
「おれは今までにもあの男を何度殺さうと思つたかわからない。しかしまだ今夜のやうに、妙な気のした事はないのだが……」
「あの空を見ろ。葦原醜男は今時分――」
その間に寂しい暁は早くも暗い海の向うに、うすら寒い色を拡げ出した。