大広間の外へ出ると、須世理姫は肩にかけた
「蜂の室へ御はひりになつたら、これを三遍御振りなさいまし。さうすると蜂が刺しませんから。」
須世理姫は父親の眼を避けて、広間の隅へ席を占めた。
須世理姫は広間へ帰つて来ると、壁に差した
葦原醜男は何の事だか、相手の言葉がのみこめなかつた。が、問ひ返す暇もなく、須世理姫は小さな扉を開いて、室の中へ彼を案内した。
素戔嗚は眼を娘の顔に注ぎながら、また
素戔嗚のかう云ふ言葉の中には、皮肉な調子が交つてゐた。須世理姫は頸珠を気にしながら、背くとも背かないとも答へなかつた。
彼は思はず身を
彼は
室の中はもうまつ暗であつた。葦原醜男は其処へはひると、手さぐりに彼女を捉へようとした。が、手は僅に彼女の髪へ、指の先が触れたばかりであつた。さうしてその次の瞬間には、
余りの事に度を失つた彼は、まだ蜂が足もとまで来ない内に、倉皇とそれを踏み殺さうとした。しかし蜂は其途端に、一層翅音を高くしながら、彼の頭上へ舞上つた。と同時に多くの蜂も、人のけはひに腹を立てたと見えて、まるで風を迎へた火矢のやうに、ばらばらと彼の上へ落ちかかつて来た。……
その薄明りに
「黙つてゐるのは背く気か?」
「背かない気ならば、云ひ渡す事がある。おれはお前があの若者の妻になる事を許さないぞ。素戔嗚の娘は素戔嗚の目がねにかなつた夫を持たねばならぬ。好いか? これだけの事を忘れるな。」
「私は御父様の御云ひつけに
「確に蜂の室へ入れて来たらうな?」
「さうか? では勿論これからも、おれの云ひつけは背くまいな?」
「いいえ。――御父様はどうしてそんな――」
夜が既に